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長い呟き、独り言です。



公園の工事を見かけた。土が掘り返され大きなコンクリート片が山となって積まれていた。

風邪で寝込んだ家族に変わって、スーパーへ買い出しに行く途中出くわした。

遊具はブランコと滑り台しかない、アパートに周りを囲まれた小さな公園。

自分にとって特別な場所だった。

そこで見る桜が好きだった。

公園の周りを囲む形で桜が植えられ、真ん中にも一本植えられている。桜の名所には適わないけれど、春になればちょっとした見物だった。

夜、一人で滑り台のうえでカップ麺を食べながら桜を見上げた。いつもと同じカップ麺なのに、いつもより温かく美味しく思えた。二十歳を過ぎてから缶酎ハイも加わった。何よりも旨い花見酒だ。

ブランコを漕いでみた桜。高く上がれば鼻先へと近づく。このまま飛び込めるんじゃないかと思った。

ぎぃこ、ぎぃこ、と近付き離れていく桜の残像はしっかり頭の中に焼き付いている。あの時花は青白く見えたんだよ。

夜空に浮かぶ桜の隣にはいつも欠けた月がいた。「月に群雲、花に風」「月は入りておしまれ、花は散りてめでたき」月と花を一緒に読みたがる昔の人の心が少し分かった気がした。

今、その風景は見る影も無い。掘り返された土とコンクリ片、茶色と灰色の世界。淡い白と優しい闇の幻想世界はもう何処にも。

最後にこの公園を見たのはいつだった?自分に問いかける。

三週間前の年末だ。

深夜、友人宅に向かう途中で通りかかった。ちょっと立ち止まって見上げた桜の木、蕾はまだ小さくて堅くて咲くのは当分先だなぁと白い息を吐きながらぼんやり考えた。

春になっても蕾が開くことはない。

私はまた一つ原風景を失ってしまったのだ。あまりの出来事に直視できず、足早にその場を立ち去っていた。

あの場所を返してよ、と言うにはあまりにも私は大きくなっていたし、また仕方ないさと納得するにも大人になりきれずにいた。

桜のある風景、失われた風景。

いつまでも其処にあり続けると思っていた。

永久に留まらず変わりゆくもの。奇しくも、それは演劇と同じだった。後戻りすることは出来ない。記憶と思い出の中で戻れる。だから、現実で前に足を踏み出さなければならない。

今年も春の夜、一人で外を歩くのだ。新しい桜を探すため。

by中山
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